鏡ヶ池と大芳賀ダム
魚沼市を代表する特産品として魚沼産コシヒカリがあります。今回は米作りとダムについてみていきたいと思います。

たわわに実る魚沼産コシヒカリ
ダムの建設目的には様々なものがあります。このサイトの「ダムの知識」で解説しているように、魚沼市の場合は水力発電を目的としたダムが多いのですが、その他にもダムには河川の洪水を防ぐためや河川の水量を維持するためなどといった目的があって建設されます。そして、ダムの建設目的の一つには灌漑用水の確保があります。これは、米作りに使うための水を確保することを目的として建設されるもので、土でできたアースダムが多いのが特徴です。
大芳賀ダム
魚沼市の場合には、このサイトでは紹介がされていませんが、かんがい用水の確保を目的としたダムとして「大芳賀ダム」(大羽谷内池)があります。大芳賀ダムは入広瀬地区にあるアースダムで、『ダム便覧』によると堤高が15m、堤頂が58mあります。ダムというとコンクリートでできたダムをイメージする人が多いと思いますが、このようなアースダムも全国各地にあります。大芳賀ダムは4万2千㎥の水を貯めることができ、入広瀬地区の田んぼへ水を供給しています。

訪れた時は草ぼうぼうでしたが、米作りのための大切なダムです。

大芳賀ダムの上流側

この水がおいしいお米を育てます。
鏡ヶ池
大芳賀ダムは山の入り組んだ道の奥にあり、道も狭いので行くためには十分な注意と周辺の農作業をする方への配慮が必要ですが、気軽に見学ができる堰堤もあります。それが「鏡ヶ池」です。鏡ヶ池は道の駅入広瀬に隣接しているため池で、こちらも灌漑用水の確保を目的とした堰堤です。鏡ヶ池は堤高が9m、堤頂が67m、貯水量は7万㎥あります。

鏡ヶ池の堰堤。大芳賀ダムとよく似ています。
ため池とは、農業に必要な水を確保するために造られた人工の池です。農業を行うには水がかかせませんが、ため池は上流の山に降った雨の水を貯め、その水を田んぼや畑に供給しています。ため池は、その形態により大きく分けて「谷池」と「皿池」の二種類に区分されます。山間や丘陵地で谷をせき止めて造られたため池が「谷池」で、平地の窪地の周囲に堤防を築いて造られたため池が「皿池」です。鏡ヶ池はもともとあった池の出口を堰き止めて造ったため池で、区分でいうと「谷池」となります。
ため池は、水を貯める「堤体」、洪水を安全に流下するための「洪水吐」、かんがい用水を取り入れるための「取水施設」などから構成されており、基本的なダムの構造と似ています。

鏡ヶ池の取水施設。ここから水を取り入れ下流に流します。
日本では河川法で、堤高が15m以上のものは「ダム」と定義して、水位・流量の観測や操作規定を定めることを義務付けるなど、特別の規定を置いています。それより低いものは堰堤と呼ばれることが多いです。大芳賀ダムは高さが15mなのでダム、鏡ヶ池は高さが9mなので堰堤ということになります。

鏡ヶ池の堰堤は池の出口に建設されています。
鏡ヶ池には湖岸を一周する遊歩道もあり、釣りやボート遊びをすることもできます。春には池の周りに桜の花が咲き華やかな景色となります。

鏡ヶ池は道の駅から歩いて一周することができます。
また、鏡ヶ池には女神の伝説もあります。伝説では、昔、鏡ヶ池のほとりに女神が住んでいました。女神は毎日、鏡を見て自分の髪をすいていました。ある時、いつものように鏡で自分の姿を写そうとすると、鏡を池の中に落としてしまいました。大切な鏡なので女神は一生懸命探しましたが見つかりません。そうしていると、女神は自分の姿が池の水面に写っていることに気づきます。「そうだ、姿を写すなら水面でも写る」と思った女神は鏡を探すのをやめ、水面を見ながら髪をすくようになったということです。そこから、「鏡ヶ池」という名前がつき、行けに石を投げたり水を濁したりすると女神の怒りで雨が降るということです。

鏡ヶ池のほとりに立つ女神の像

女神が姿を写したという鏡ヶ池
大芳賀ダムや鏡ヶ池のようなダムや堰堤のおかげで田んぼの水が確保され、秋には美味しいお米ができます。新米の時期になったら、こうしたダムやため池のことを思い出してみてください。

道の駅いりひろせには、鏡ヶ池の湖上レストランもあります。
この記事を書いたのは...

- ダムの知識ガイド:目黒公司
- 一般財団法人日本ダム協会が任命するダムマイスター(一般)。
これまでダムについての講演などを開催。新潟県魚沼地域振興局の『うおぬまダム周遊MAP』制作監修。過去に開催されたダムの見学ツアーではバス車内ガイド等を担当。