広神ダムと「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」
2011年に完成した広神ダムは、新潟県内にあるダムの中でも比較的新しいダムです。
今回は広神ダムの紹介と、広神ダムに似たダムが登場する映画をご紹介したいと思います。

小平尾緑地公園から見る広神ダム
広神ダムの概要
広神ダムは、破間川の支川和田川に新潟県が建設した多目的ダムです。1986年に治水ダム建設事業としてスタートし、1993年には新潟県企業局の発電が加わり、治水や発電などの複数の目的を有する多目的ダムとして建設されることになりました。
ダムの本体工事は2001年から開始しました。2004年から本体コンクリート打設を開始しました。広神ダムでは堤体コンクリートの打設工法に、効率的・合理的な工法として県内の重力式コンクリートダムとして初めて「拡張レヤー方式」を採用しています。
豪雨災害や中越地震などの災害にも見舞われましたが2008年に打設は完了しました。2011年から広神ダムは管理体制に移行し、同年6月14日に竣工となりました。その翌月には「新潟・福島豪雨」が発生していますが、広神ダムは洪水調節の効果を発揮しています。

広神ダム(右岸側から)

広神ダムの全景
広神ダムの建設目的
広神ダムの建設目的は三つあります。
一つ目は「洪水調節による下流河川の洪水防止」です。広神ダムは和田川流域に70年に一度の大雨が降った時でも、毎秒約370立方メートルの水をため込み洪水調節を行います。それにより、和田川と破間川の洪水を防止します。
二つ目は「流水の正常な機能の維持」です。和田川には、うぐい、かじか、こい等の魚が生息しています。また、和田川の水は和田川沿川の耕地のかんがい用水としても利用しています。ダムに水をためておき常に一定量を流すことで、川の水が枯れないようにし、動植物の保護や水の清潔保持、かんがい用水の安定的供給等をしています。
三つめは「発電」です。新潟県企業局がダムの直下に発電所を建設しています。発電所では、最大出力1,600kWの発電を行います。

ダムの上から望む発電所(四角い建物)

発電所の内部
兎畑と折中渓谷
広神ダムの建設にあたっては、ダムの上流部に位置していた兎畑集落が移転しています。兎畑集落は18世帯で構成されていましたが、ダムが完成すると洪水調節時に集落全体が湛水区域に入るため、全世帯が移転する必要がありました。昭和63年に全家屋の移転が完了しました。

兎畑集落の閉村記念碑
また、広神ダムとダム湖のある場所は「折中渓谷」という名勝でしたが、折中渓谷もダム建設により今は見ることができなくなっています。

かつての折中渓谷の一部
スキー場から見る広神ダム
広神ダムから離れたところには薬師スキー場があります。薬師スキー場の頂上からも広神ダムを見ることができます。

薬師スキー場の頂上

薬師スキー場の頂上から望む広神ダム(中央付近)
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」と広神ダム
ヱヴァンゲリヲン新劇場版シリーズの完結編となる、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が3月8日に公開されました。2009年に公開された映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」には、広神ダムに似たダムが登場する場面があります。
劇中の背景画の一つにダムの建設現場があります。この場面では、建設中のダムの上流側に主人公が搭乗するエヴァンゲリオン初号機が待機し、合図とともに走り出します。(どんな場面かは映画をご覧ください)
作中に出てくるダムはあくまでもフィクションであり、実在するダムそのものではありませんが、取水塔の打設に使用する黄色いタワークレーンやダム上部の非常用洪水吐の足場、周囲の様子が『広神ダム工事誌』にある建設過程の、平成20年6月の写真と似ています。

『広神ダム工事誌』より(写真提供・新潟県魚沼地域振興局地域整備部)
映画のエンドロールには、取材協力として「ハザマ・清水・福田JV広神ダム出張所」がクレジットされています。そのため、広神ダムに似たダムが背景画の一つとして登場するものと思われます。

現在の広神ダム
広神ダムには多くの目的があります。完成までには集落の移転などもありましたが、竣工直後に起きた新潟・福島豪雨では洪水調節の効果を発揮しています。映画の一場面に登場するダムとも似ていますので、気になる方は訪れてみてはいかがでしょうか。
この記事を書いたのは...

- ダムの知識ガイド:目黒公司
- 一般財団法人日本ダム協会が任命するダムマイスター(一般)。
これまでダムについての講演などを開催。新潟県魚沼地域振興局の『うおぬまダム周遊MAP』制作監修。過去に開催されたダムの見学ツアーではバス車内ガイド等を担当。